お局さま観察日記

今日のお局さま

老眼

私は知っている
会議中に細かい数字のプリントを見る時
携帯を見る時
必要書類を見る時


私は、知っている
お局さまの目が
焦点を合わせようと必死になっている事を


そして私は知っている
お局さまはそれを隠している事を
そう
老眼である事を隠しいているのだ
必死に。。。


あーんなに目を細めて焦点を合わせようとしているとこ
携帯や書面をグーンと離してチャレンジしているとこ
だのになかなかフォーカスが効かないとこ


仕事中にたまに使う眼鏡の謎


お局さま「私ね、近視と遠視が入ってて、これはそれ用の眼鏡なの」


え?聞いてもないのに何よ


お局さま「乱視も入ってるもんだからさあ」


何だかよく知らないけど、オンパレードじゃん
要はフォーカス機能が無いって事?
それなのに、その眼鏡あんまり使ってないですね


私は知っている
その眼鏡がカモフラージュ用のアイテムだという事を


この眼鏡は老眼鏡じゃないのよ
だってアタシ、老眼じゃないから
特別なメガネが必要なの


そうアピールしているのだ


けれど、私は見た
スマホの画面が拡大設定されているのを


お局さま「みつこさん、そのレポートなんだけど」


って言いながら私のデスクトップの画面に
目をめいいっぱい細めながらぎゅいーんと近ずいてくるあたり
亀の首が伸びるようにぐーんと近ずいてくるあたり


そんな時のお局さまの顔、私の顔のすぐ横に来る


これが一番嫌

お局さまの恋

「みつこさん、ご無沙汰してま~す!」
ゆう君(仮名)がやってきた


みつこ「おおお~~久しぶりだね!」


ゆう君「僕、〇〇社に正社員決まったんです~~」


ゆう君は2年前くらいにインターンとして勤務していた青年だ
就職先が決まり、律儀にも挨拶にやってきたようだ


お局さま「や~だ~~、ゆうちゃ~~ん、久しぶりじゃん♪こっちこっち!」


私たちと話す隙も無く、彼はお局さまに拉致されて行った。。。




そう、あれは2年前。。。
ゆう君がインターンとして勤務しだしてすぐの事


お局さま「あの子さ、ここ通る度に必ず私の顔、ちらって、見るんだよねえ」


お前が凝視してるからちゃうん?


お局さま「あの子さ、今どの部署にいるの?」


ロックオン♪
お局さまはここぞとあらゆる力を振り絞り、
ゆう君を期間限定のアシスタントとして手に入れてみせたのだ


若くてスラリと長身、細身のゆう君に一目ぼれしたお局さま
そこからはもう、
ゆう君♪ゆう君♪
の毎日


より一層露出度を増してく服装
夜をイメージさせるダークパープルのレース付きキャミソール
ボニボニした二の腕にキラリと光るBCG予防接種痕
寄せに寄せた胸の谷間に現れる皺は、相変わらず梅干しみたいだ


攻めてるね


お局さま「ゆう君に、これ、作ってきたの、食べてえ~」
おにぎり。。。
やっぱり中身は梅干しか?


お局さま「ゆう君って実家なの?」
お前より若いお母さん出てくんじゃん?


ランチにお茶にってゆう君を連れ回す姿は親子のよう


お局さま「ねえ、ゆう君って彼女とか、いるの?」


ゆう君「はい、います~~」


時が止まったお局さま
傷ついてんじゃねえよ笑

マダムの事件②

とにかく私は出勤し
お局さまにマダムがお休みする旨を伝えた


お局さま「え?だって私の所には連絡無いわよ?」


みつこ「かなり動揺してたので、慌ててたんじゃないでしょうか」
(あなたとは話したくないんですって、なんて言えない。。。)


お局さま「普通はね、電話じゃなくって1回出勤して話しに来るもんなの!普通はね!」


え?


お局さま「出勤してきて、どれくらいお休みするのか、決めるもんなの!」


みつこ「え、でも、旦那さん集中治療室に入っちゃってて、それどころじゃないんじゃないかと。。。昨晩の話ですよ?」


お局さま「だってその旦那、まだ生きてるんでしょう?」


みつこ「え?。。。はい。。。」


お局さま「だったらいいじゃん」


何が?


なんだかよく分からなくなってきた
マダムからまた電話があったら
お局さまに連絡するよう伝えますね、みたいな事をやっと言って
仕事に戻った


その日は夕方まで頭がぼんやりしたままだった
お局さまのあの一言はなんだったのだろう?
“まだ生きてるんでしょ”って何?


気が付けばもうみんな退社していて、残ってるのは私だけだ


携帯が鳴った
マダムからだ
旦那さんの意識はまだ戻っていないらしい


みつこ「今日の事は私からお局さまに伝えました、それでね、マダム」


マダム「うん、分かってるよ、さっきお局さまに私電話して事情を話したの
そしたらね、なんて言ったと思う?
“ああ、はいはいはい、で、いつまで休むつもりなの?”だって。。。
私ね、もうこのまま辞める。あの女の顔はもう見たくない、絶対に許さない」


みつこ「マダム、ごめんなさい。もういいから、とにかく今は旦那様についてあげて下さい」


もう、みっちゃんが謝る事じゃないじゃな~~い
くすっと笑った悲しい声
泣かれるよりつらいよ
心が押しつぶされそうだった


違う、今いちばん押しつぶされそうなのはマダムの方だ
どんだけ心細い思いで病院にいることだろう?
私がお局さまに怒れば良かった
こんな時にあなたは何て事を言うんだ!って
きつく言ってやれば良かった


ごめんなさい、マダム
結局私は何もできなかった


嫌だなこんな感じ
しんどい
とにかくもう、早く家に帰ってお風呂に入ろう


「あれ?みつこちゃんまだ居るの?」
清掃のおじさんだ
ぽっちゃり体型に外国人みたいに彫りの深い顔
暖炉のあるログハウスに住んでいそうなこのおじさん
私の中での呼び名は“ロバートおじさん”


「もう帰るところです。あ、チョコレート食べます?」


ロバートおじさんには毎回、チョコレートだの飴だのを一粒あげる
餌付け


「ありがとう。じゃあ今食べちゃお」
ぱくっとチョコレートを食べるロバートおじさん
普段糖を節制していらしく
一粒でこんなほっこり顔


今日はこれに救われた